差動ペア配線

差動信号システムは、ある信号と、その反転した信号をペアで送信するものです。差動信号は、信号源の論理的な参照 GND が、負荷の論理的な参照 GND へうまく接続できなかった場合に対応するために開発されました。差動信号は、一般的な電気的ノイズによる影響や、電気製品による干渉はありません。差動信号の他の利点は、信号ペアから生成される電磁妨害 (EMI) を最小限にすることです。

差動ペア配線は、安定した送信システムで差動(非反転と反転)信号を送信するための設計手法です。一般的に、この差動配線は、外部の差動送信システム(例えば、コネクタやケーブル)へ接続します。

ツイストペア差動ケーブルの coupling 比は、99% 以上になる場合がありますが、差動ペア配線の coupling は、一般的に 50% 以下になることに注意することが重要です。現在の専門家の意見として、その目的は、外部のケーブルを使用して最適な差動信号を送信できるようにすることではなく、PCB の配線作業で、特定の差動インピーダンスの要件を満たせるようにすると言うことです。

産業の高速 PCB 設計の専門家で有名な Lee Ritchey 氏によれば、要件を満たす差動信号を配線するために、特定の差動インピーダンスを考慮する必要はありません。必要なことは以下です:

  • 各配線信号のインピーダンスを設定して、入力差動ケーブルインピーダンスを半分にします。
  • 2 つの信号線は、受信端でそれ自体の特性インピーダンスにします。
  • 2 つの信号線は、ロジックファミリーの許容差や、デザインで使用した回路周波数の範囲内で、同じ長さにする必要があります。タイミングを維持し、設計予算に合うよう、できるだけ等しい配線長にすることに着目する必要があります。例えば、配線長の許容差は次の通りです: 高速USB、配線長の不一致は、150 mil 以上であってはいけません; DDR2 クロックは、25 mil 以内で配線長を一致させる必要があります。
  • 2 つの信号を並べて配線する利点を使用して、高品質な等長配線が可能です(障害に沿って配線する必要がある場合)。
  • 信号インピーダンスを維持していれば、レイヤ変更は、可能です。

詳細情報については、Lee W. Ritchey 氏による Differential Signaling Doesn't Require Differential Impedance の記事(http://www.speedingedge.com/RelatedArticles.htm)を参照してください。

回路図で差動ペアを定義

差動ペアは、ペアの各ネットに差動ペアディレクティブ (Place » Directive) を配置して、回路図で定義します。各ペアのネットには、サフィックスに _N と _P を付加したネットラベルを配置します。差動ペアディレクティブのパラメータの Name に DifferentialPair、Value に True を入力して、ネットにパラメータを適用します。

差動ペア定義は、デザイン同期中に PCB へ移行されます。


回路図でディレクティブを配置して、差動ペアを定義。

PCB で差動ペアを表示、管理

差動ペアの定義は、PCB パネルで Differential Pairs Editor に設定して表示、管理できます。下図は、All Differential Pairs クラス(この基板の全てのペア)に属するペアを示します。V_RX0 のペアがハイライト表示されます。このペアのネットは、V_RX0_N と V_RX0_P です。ネット名の隣に表示された - と + は、システムのフラグです(positive、または negative かどうかを示します)。


差動ペアは、Differential Pair エディタで表示、管理できます。

PCBで差動ペアを定義

差動ペアは、回路図で定義する必要がありますが、差動ペアオブジェクトを PCB エディタで定義できます。差動ペアオブジェクトを作成するには、PCB パネルで Differential Pairs Editor モードを選択し、Add ボタンをクリックします。Differential Pair ダイアログで、ペアとする positive と negative ネットを選択し、OK をクリックします。


ネットを指定して、素早くペアを作成。

プリフィックスが同じで positive/negative のサフィックスを付加したネット名を使用して(例えば、TX0_P と TX0_N)、差動ペアオブジェクトを作成できます。これを行うには、PCB パネルの Create From Nets ボタンをクリックして、Create Differential Pairs From Nets ダイアログを表示します。ダイアログの上部にあるフィルタを使用して、既存のネット名に基づいたネットペアを表示します。

適用できるデザインルール

差動ペアを配線するために、PCB Rules and Constraints Editor ダイアログ (Design » Rules) で 3 つのデザインルールを設定する必要があります。これらは、以下です:

  • Routing Width - 指定したトラック幅に基づいて、または指定したインピーダンス値に基づいて自動で計算して、ペアの双方のネットの配線幅を定義します。このルールのスコープを、差動ペアの対象オブジェクト(例えば、InDifferentialPair)に設定します。
  • Differential Pairs Routing - ペアのネット間の間隔(ギャップ)と、uncoupled length(ギャップが、Max Gap 設定より広い時、ペアは、uncoupled になります)を定義します。このルールのスコープを、差動ペアの対象オブジェクト(例えば、InDifferentialPair)に設定します。
  • Electrical Clearance - 全てのネット、同じネット、または異なるネットに関する 2 つのプリミティブオブジェクト(例えば、pad-pad、track-pad)間の最小クリアランスを定義します。このルールのスコープを、差動ペアの対象オブジェクト(例えば、InDifferentialPair)に設定します。

差動ペアの長さは、Interactive Diff Pair Length Tuning 機能 (Tools メニュー) を使用して、正確に調整できます。この機能を使用すると、目的の配線長と許容差をコントロールでき、差動ペアの配線長を伸ばす様々なオプション(振幅パターンをネットペアへ追加する)も利用できます。

デザインルールのスコープを設定

デザインルールのスコープでは、ルールを適用したいオブジェクトを定義します。スコープに以下のようなクエリを使用して、差動ペアを対象にするルールを適用できます:

  • InDifferentialPairClass('All Differential Pairs') - All Differential Pairs の差動ペアクラスに属する全てのペアのネットを対象にします。
  • InDifferentialPair('D_V_TX1') -* D_V_TX1と言う差動ペアのネットを対象にします。
  • (IsDifferentialPair And (Name = 'D_V_TX1')) - D_V_TX1と言う名称の差動ペアオブジェクトを対象にします。
  • (IsDifferentialPair And (Name Like 'D')) -* Dで始まる名称の差動ペアオブジェクトを対象にします。

差動ペアウィザードを使用してルールを定義

ウィザードでデザインルールを設定するには、Differential Pairs Editor (PCB パネル) で Rule Wizard ボタンをクリックします。作成するルールに使用されるスコープは、Rule Wizard ボタンをクリックする時に選択したものに依存することに注意してください。ペアを選択した場合、ルールは、そのペアのネットが対象になります。差動ペアクラスを選択した場合、ルールは、そのクラスのネットやペアが対象になります。

差動ペアの配線

差動ペアは、ペアで配線します。つまり、2 つのネットを同時に配線します。差動ペアを配線するには、Place メニューから Interactive Differential Pair Routing を選択します。ペアのネットをクリックして、配線します。下図は、配線中の差動ペアを示します。

差動ペアを配線する時、標準の障害回避モードを使用できます(WalkaroundPushHug and PushIgnore obstacles を含む)。そのモードを切り換えるには、SHIFT + R を使用します。レイヤを切り換えるには、10 キーの * キーを、ビアの位置を切り換えるには、ショートカット 5 (キーボード左上のキー)を使用します。利用できる全てのショートカットを表示するには、ショートカット Shift+F1 を押します。


差動ペアは、同時に配線されます。

 

差動、マルチ配線で対応するアーク

Altium Designer 10 では、マルチ、差動ペアインタラクティブルーターを改善し、アークのコーナー形状を対応しました。コーナー形状を変更するには、ショートカット Shift+スペースバーを使用します:

  • 45 度トラック
  • 45 度アーク (半径 100mil)
  • 90 度トラック
  • 90 度アーク (半径 100mil)

マルチインタラクティブ配線で、複数のトラックを配線する時に利用できるコーナー形状。

 

差動ペアインタラクティブ配線で、差動ペアを配線する時に利用できるコーナー形状

 

FPGA デザイン(ピンスワップを含む)に対応する差動ペア

現代の FPGA には、差動ペアとして設定できる多くの I/O ピンが含まれています。これらの電源を容易に接続するために、Altium Designer では、FPGA ベースの差動ペアの統合機能を対応しました(FPGA と PCB デザインの双方で)。

FPGA デザインで、1 つのネットを LVDS のような差動 I/O 規格へ割り当てることができます。これは、PCB デザインの物理的なペアのネットへマップされます。このプロセスは、FPGA Signal Manager を使用してコントロールできます。また、design compiler は、PCB デザインで差動ペアとして使用するピンが、FPGA デバイスのペアへ正しくマップするかどうかチェックします。

差動ペアに対応したシグナルインテグリティ

Altium Designer のシグナルインテグリティ アナライザーでは、差動ペアのシミュレーションを対応しています。これにより、FPGA で LVDS 規格を使用している時、正しいシグナルインテグリティモデルがピンに使用されます。

 

差動やマルチ配線に対応したループの削除

Related article: Modifying Existing Routing

Altium Designer では、マルチ、または差動ペアインタラクティブ配線で配線している時、ループを削除できます。

配線する時、既存の配線を変更する必要がある場合があります。トラックセグメントをドラッグして既存の配線を変更するのではなく、再配線します。これを行うには、Place メニューからInteractive Differential Pair Routing、または Interactive Multi-Routing コマンドを選択します。そして、既存の配線をクリックし、新しい経路で配線してから既存の配線に戻ってクリックします。この場合、古い経路と新しい経路でループになりますが心配はありません。右クリック、またはEsc を押して配線を終了します。古いセグメントやビアが、自動で削除されます。

差動ペア配線中、ループを削除した例。新しい経路で再配線して配線経路を最定義して時にループした場合、古い配線は、自動で削除されます。

参照

Getting ready to route
Interactively Routing a Net
Modifying Existing Routing
Tuning Route Lengths
Fanout and Escape Routes

 

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